自発性と応用力を育てるコーチング

新しい人材育成手法として注目を集めているコーチングですが、どんなときでも、また誰にでも有効かというとそうではありません。コーチングは決して万能ではなく、その特徴や活用に適する場面を的確に見分けて用いることが必要です。

そこで今回は、従来の人材育成手法の代表格であるティーチングと比較しながら、コーチングの人材育成手法としての特長や注意点を明らかにし、どのようなときに効果を発揮するのか、身近な例を交えながら紹介します。

 

●人材育成手法としてのティーチングのメリットと限界
ティーチングは学校教育から始まり、組織における人材育成や習い事などさまざまな場面で一般的に用いられている育成手法です。その他にも日常のちょっとした場面で、知っている人が知らない人に教える、できる人ができない人に教えるといったようにティーチングは使われます。ティーチングは「自分が持っている知識、技術、経験などを相手に伝えること」と定義することができ、次のようなメリットがあります。

・速いスピードで育成できる
正解が明らかなことや、すでにうまくいっていると実証できている方法を伝達するので、教えられる側が考えたり思考錯誤する時間を最低限に抑えられる。

・一度に大勢の人数を育成できる
情報伝達という一方通行な手法のため、講義形式のように同時に大勢の相手を育成することができる。

・やり方や価値観の統一を図ることができる
複数の人間に同じ内容を学ばせることに優れた形式のため、ルールの徹底やマニュアル指導に向いている。

一方で、ティーチングには次のような限界もあります。
・教える側の知識や経験に左右される
教える側の知識や経験を伝えるという形式のため、教える側が持っていること以上を伝えたり、引き出したりすることができない。

・教えられる人の個性は活かされない
教える側と違ったタイプの人にとっては自分の可能性や強みが活かされなかったり、身につける過程や学んだことを実行するのに時間がかかったり、時には苦痛が伴うこともある。

・教えられる側を受け身にさせる
情報を受け取る形式のため、プロセス自体が受け身になる。そのため、教えられたことを使って失敗した場合は教えた側に責任を転嫁したり、うまくいった場合も自信に繋がらないことがあり、結果として自律性を失うことがある。

ティーチングはすでにさまざまな場面で活用され、成果を出している手法ですが、このような限界があるので万能ではありません。そうした点を補完したり、場合によってはティーチングに代わる手法として注目されているのがコーチングです。


●人材育成手法としてのコーチングのメリットと限界
コーチングは「コミュニケーションを通して、相手に自ら気づき、自発的な行動を促すこと」と定義できます。また、「上から知識を教える」のではなく、「共に学ぶ」という形で能力開発する取り組み方ということもできます。
スポーツにおける指導を例にとって考えてみましょう。スポーツにおいてもティーチング型の指導、コーチング型の指導があります。たとえば、野球のスイングを指導する場合、ティーチング型のトレーナーは握り方や打ち方、体勢などについて直したほうがいいことを指摘したり、理想的な形を示したりします。
一方、コーチング型トレーナーは「どのような球を打ちたいのか」などゴールイメージを引き出し、それに向けて「今うまくいっていることは何か」「どこを変えるといいか」「誰の打ち方をモデルにするか」などを引き出し、相手に考えさせ、相手の個性を活かしながら指導します。時にコーチング型トレーナーは野球以外での成功体験を引き出し、それを野球のスキルアップに活かすことを促しもします。このようにコーチング型の育成手法には、次のようなメリットがあります。

・相手の考える力を育て、自発性や応用力、再現性を高められる
できるようになるまでの方法を自分で考えるため、アイディアや実行に責任やモチベーションが生まれる。同時に考えるプロセスを他の領域にも活かすことができるため、応用力や再現性が高まる。

・相手の可能性を引き出すことができる
共に考えるプロセスのため、教える側、教えられる側双方のアイディアや経験が活かされる。また、やりとりを通して相乗効果を発揮することもできる。

・相手の個性を活かすことができる
相手の個性に合わせた形でスキルアップを促すので、相手のモチベーションやスピードが高まる。また多様性を持ったチームをつくることができる。

一方、コーチングも良いことばかりではく、次のような限界があります。
・ある程度の時間がかかる
相手に考えさせたり、そのための双方向なやり取りが必要になるので、場合によってはティーチングの倍以上時間がかかる場合もある。ただし、そのやり取りのプロセスが自発性やその人らしさに繋がり、受け身のティーチングに比べ行動や成長のスピードが高まる場合もある。

・一度に大勢を育成できない
個別対応を必要とするため、理想的には1対1、グループ形式でも少人数でしか一度に実施できない。

・方法や価値観が多様化するので、対応やマネジメントが複雑になる
個性を尊重したり、教える側が想定していなかった方法や答えが出てくる場合もあるので、一律で対応することができない。

・相手に全く知識や経験がない場合、答えを引き出すことができない
たとえば、全くパソコンの使い方を知らない人に「どうすれば文章作成できる?」と投げかけても答えは出てこない。コーチングを用いるには相手にある程度の知識や体験、もしくは想像力でカバーできるような疑似体験がないと難しい。

 

https://allabout.co.jp/gm/gc/297562/4/

 

まずメリットと限界を知って既存の育成手法と補完するような形でコーチングを取り入れることが現実的かつ、効果的な導入方法です。