中国のビジネスマナー⑦

費用負担の原則

【1】 誘ったほうが全額負担
中国には日本のような「割り勘」という習慣が存在しない。日本とは違って、中国では「誘ったほうが全額費用を負担する」という原則がビジネス上でも私的交際上でも基本である。ごく最近になって、北京や上海の若い人たちのあいだで「AA制」と呼ばれる「割り勘」システムが一部に見られるようになってはいるが、まだまだ中国では「割り勘」は例外的な存在と言ってよいだろう。
たとえば、中国の取引先公司を訪問して食事の時間となり、先方の誘いで近くのレストランに食事にでかけたとしよう。立派な中華料理をご馳走になり、昼間からビールで乾杯して良い気持になって、最後の会計の場面になって、日本側が中国公司幹部の面前でポケットから財布を取り出し、「いやいや、今回はこれだけいろいろお世話になっているのですから、この場は私どもで全額お支払いさせていただきます」とか「私どもの分は私どもできちんとお支払いさせていただきますから…」と頑張ることは、中国のビジネスマナーから見れば最低・最悪の行動パターンである。中国でこのような行動をとると「お宅の会社にはカネが無いだろう」と面と向かって相手を侮辱しているのと同じである。こちらが招待されたら先方がすべて費用負担するのが先方の面子であり、ささいな金額でも、このような態度は先方の面子を踏みにじる行為となる。ここは黙って「大変おいしかった、ご馳走様でした」と礼を述べて席から立ち去るのが礼儀である。もし金額負担が大きければ、次回、当方から誘うことが礼儀となる。
逆に中国の公司を訪問して、食事や宴会に当方が誘われなかった場合で、相手が大切なお客様で、ぜひ当方としてお誘いしたい場合、誘うこと自体は問題ない。その場合、相手が中国での受け入れ組織(中国語で「接待単位」という)であった場合でも、もちろん費用はすべてこちらで負担することになる。つまり、こちらが相手側に訪問したのだから受け入れ側が費用負担するという原則でもないので注意されたい。

【2】 ビジネスと友好を混同しない
このように中国では誘った側のホストの面子が大変尊重される。ましてや外国から客人が訪問してきた場合、最高のもてなしをもって対応し、最大満足して帰国してもらうことが中国側ホストとしての面目躍如となる。当方としてはこれを最大限に尊重するように常に配慮する必要がある。「事大主義」と笑われるかもしれないが、中国社会はそのような社交辞礼ルールで動いていると最初から割り切ってしまえば、中国ビジネスは結構スムーズに進むものである。
日本人、日本企業のなかには、そのようなホストの面子を忘れてしまい、自分が尊敬され、重宝されているのだと勘解して舞い上がってしまう例が数え切れない。さらに悪乗りして、日本人の「甘えの構造」感覚で、宴会という中国の社交場にビジネスの話を持ち込む日本人もいる。そのような公私混同の行為は中国側から「やっかいな日本人につかまってしまった」と心中で思われるだけである。たとえそこで無理難題をひとつ聞いてくれたからといって、「自分は中国でなんでもできる」と思い込んでしまうのが中国ビジネス失敗への第一歩となる。そのような関係は一年と続いたためしがない。ビジネスと友好を混同してしまう日本人の愚かさだけは避けたい。


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