給料がアップすれば、やる気は起こるのか?

●働く意欲をアップさせるのは何?

 労働意欲は、何をもってアップするのでしょうか? 景気が上向いて、給料もアップすることでしょうか? それとも、福利厚生の充実でしょうか?
ここで、従業員の労働意欲について調査した、ある有名な実験を紹介しましょう。1920年代にメイヨーが行った「ホーソン実験」と呼ばれるものです。
当時、3万人近くの従業員を抱えていたウエスタン・エレクトリック社(米)のホーソン工場では、従業員の不満が多いことに頭を抱えていました。「他社に比べて、給料や福利厚生も充実しているのに、どうしてだろう」と悩み、メイヨーに調査を依頼したのです。

まず、作業環境や労働条件を改善してみたのですが、はっきりした効果はあらわれませんでした。そこで、従業員の心に目を向けてみたところ、明らかな変化が認められました。従業員の悩みに耳を傾け、人間関係が改善されるように調整するなどして、意欲が高められるように取り組んでみたのです。すると、労働意欲は格段にアップして、生産性向上に結びつくことができました。


●無力感は「学習」される!?

 この実験からも、給料のアップや福利厚生の充実が、必ずしも労働意欲を高める決定的な要因ではない、ということがよく分かります。
いくら景気がよくなって、給料の上昇が見込まれても、パワハラに耐えなければならない職場だったらどうでしょう? 達成した仕事を、誰も評価してくれないような職場だったらどうでしょう? やはり、無力感が募り、働く気が萎えてしまうのではないかと思います。
こうした無力感は、そのままにしておくととても危険です。それについては、セリグマンがイヌを使って行った実験でも証明されています。イヌの体を縛りつけて、逃げられない状態にして何十回も電気ショックを与えました。そして、次の日には動いて逃げられる状態にして、電気ショックを与えました。しかし、イヌたちは逃げ出すこともなく、無気力のまま、おびえながら電気ショックを受け続けていたのです。
このように、自分の努力によって状況を変化させることができなくなると、「無力感」が学習されてしまいます。すると、「何をやってもダメだ」というあきらめの境地に入り、現状を変える意欲どころか、逃げ出す気持ちさえも起こらなくなるのです。


働く人の状況も、これと同じではないでしょうか?「お前はダメだ」と言われ続けたり、がんばっているのに何の評価もされないで働いていると、無気力なまま、惰性で会社に通うだけの日々になってしまうのではないかと思います。

 

●小さな仕事にも、自分の「オリジナリティ」を盛り込む

働く意欲を起こすには、まず職場が変わってくれることがいちばんです。それには、上司や経営者が従業員の心に目を向けなければなりません。
でも、現実にはそんな「話の分かる」会社にめぐり合えることなんて、めったにありません。そこで、働く人は自分自身のモチベーションを、常に確認することが必要になります。そのために、自分に問いかけるのはこのひとつ。

「この仕事によって、何を得ようとしているのか」

ということです。どんな劣悪な職場でも、しかし、目の前の仕事に取り組むことによって得られる成果は、必ずあるはずです。
その成果は、小さなことでもかまいません。たとえば、「資料作成の手順を工夫したら、時間短縮に結びついた」「身だしなみを工夫したら、営業先の心証がよくなった」など、どんなことでもいいのです。アイデア次第で、自分なりの仕事の工夫は生まれていくと思います。そして、これが自信へとつながっていきます。
常に、「やらされている」と思うのではなく、仕事に積極的に「自分オリジナルの何か」を盛り込んでいこうとする態度が大切です。終身雇用制が崩壊した今では、日々の仕事で得られる「実績」を積み重ねるとともに、自分なりのオリジナリティを売りにできる才知が必要になります。


●「シェイピング」の手法でやる気をアップしよう!

 しかし、最初から高い目標を掲げて「あれを達成しなければ」とがんばるのは、あまり効率的ではありません。大きな目標に近づくためには、小さなステップをいくつか設けて、ひとつひとつクリアしていくといいのです。このように、ステップをクリアしながら目標達成に近づいていく手法を「シェイピング」といいます。
もし、今の職場に閉塞感を感じたときには、これもひとつの「ステップ」なのだと感じてください。まず、漠然とでも自分がなりたい大きな目標を描き、そのなかで「今の仕事はどの位置づけにあるんだろう?」と考えましょう。そして、今の仕事で得られることをリストアップしていくことです。そのスキルや自信が獲得できたように感じたら、さらに上のステップへと意識をシフトしていけばいいのです。
ステップを変えることが、別の部署への異動願いや転職かもしれません。もしくは、資格にチャレンジすることによって、仕事の質を高めることかもしれません。
仕事におけるむなしさや閉塞感は、「もっと向上したい」「変化させたい」というサインでもあります。小さな閉塞感を放置することで無力感にはまらず、常に大きな目標をイメージしましょう。

 

https://allabout.co.jp/gm/gc/301573/2/

 

ステップをひとつひとつクリアしていく気持ちで、日々の仕事にトライする気持ちを忘れないでいたいものです。